えらいお坊さんも行動科学を使っていた!
大人気の
「ビジネス寓話シリーズ」
をお送りいたします。
「地獄めぐり」です。
どんな教訓があるのでしょうか?
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昔、日光に弘法大師が開いたといわれる
「寂光寺」
という寺がありました。
この寺には人々から尊敬されている
「覚源上人」
というお坊さんがいました。
ある日、上人は横になり休んだまま、息を引きとってしまいました。
でも上人の体は
「まるで生きているように」
いつまでも温かいのです。
どうしたものかと人々が困ってるうちに
「17日」
が過ぎてしまいました。
すると・・・
なんと上人が目をさましました!
上人は集まっていた人々を見て
「わしは今、冥途の旅から戻ったところじゃ。皆さんにぜひこの話を聞かせたい。」
と、世にも不思議な旅の話を語り始めました。
わしは、雲に乗り闇の中をどこまでも進んでいった。
すると炎に包まれた山門があった。
鬼が立っておる。
これが地獄門だなと、わしは思った。
門をくぐるとそこは閻魔堂。
閻魔大王の前に、大勢の人々が引き据えられておった。
その人々を閻魔大王が裁くのじゃ。
そうしてとうとう上人の番がきました。
すると閻魔大王が上人にこう言いました。
おまえをここへ呼んだのは罪人としてではない。
この頃地獄へ落ちる人間の数が増えている。
罪を犯せば
「死後地獄へ落ちる」
ということを忘れているからではないかと思ってな。
それで、人々に説教する役目のおまえに、
「地獄の恐ろしさ」
をよく見てもらって、人々に話してもらいたいのだ。
こうして上人は
「地獄めぐり」
をすることになりました。
・鬼に体を切り裂かれる人
・重い荷物を持って針の山をのぼる人
・血の池でもがき苦しむ人
・鉄の棒でうち砕かれる人
・熱く焼かれた鉄の縄で縛られる人
そんな地獄の様子を見て
「上人は地獄から帰ってきた」
といいます。
その後上人は、
「一人でも多くの人が、地獄の苦しみから救われるように」
人々にこの地獄の話を説き続けたそうです。
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このお話により
「私たちの地獄のイメージ」
というものが定着したような気がします。
地獄に落ちないように
「現世で善い行いを心がけよう」
という教訓です。
しかしこのコラムがそれで終わらせては
「ビジネス寓話」
ではありませんね。
上人が語ったことで
「地獄に落ちないように」
と多くの人が行動を変化させたことはこのお話の教訓です。
■地獄に落ちないようにするには天国の話をしてもよいはず
地獄の反対は
「天国」
です。
上人の目的は
「地獄に落とさない」
というものです。
それならば
「天国のすばらしさ」
を伝えても良いはずです。
天国はこんなに素晴らしい!
だから善い行いをしてみんな天国に行こう!
しかしこのお話は
「地獄の苦しみ」
を語り続けています。
実は上人は
「脳のメカニズムを先回りした高度な交渉術」
を使っています。
■あなただったらどちらの手術を受けますか?
天国と地獄だと抽象的なので、例を変えてみましょう。
あなたは身体を壊して
「手術」
を受けることとなりました。
どちらの手術なら受けようと思いますか?
A この手術は90%の確率で成功する手術です。
B この手術は10%の人が確実に死にます。
この場合、ほとんどの人が
「Aの手術」
を選びます。
しかし2つの手術は
「まったく同じこと」
を言っています。
この情報伝達の手法を
「上人が使っていた」
ということです。
「情報の見せ方によって人の行動を変えること」
をフレーミングと言います。
人の脳
「損失回避性」
というシステムが組み込まれています。
これは
「生物が生きる上で必要な本能」
です。
「マイナスを回避したい」
という強い行動を創り出します。
そのため人は
「リスクを伝えられる」
方が行動を起こしやすいとされています。
このメカニズムは
「ノーベル賞」
を受賞しました。
行動経済学者
「ダニエル・カーネマン」
が明らかにしています。
覚源上人は
「この行動メカニズムを理解して説いていた」
ということになります。
それにより、人々の行動を
「良い行いに変えていく」
という行動変革を実現しました。
そして
「多くの人を地獄に落とさない」
という目的を果たしたということになります。
私の提唱している
「行動創造理論のルーツ」
と言えるお話です。
今日はビジネス寓話シリーズ
「地獄めぐり」
をお送りいたしました。