「営業の仕事は、AIに奪われるのでしょうか」
研修先の経営者や営業マネージャーから、最近この質問を受けることが本当に増えました。
私の答えは、はっきりしています。
失われるのは、特定のタイプの営業です。
そしてそのタイプは、日本の営業現場に最も多く存在しています。
少し厳しい言い方をすれば、これからの市場で残るのは「トップセールス」だけです。
ただし、ここでいうトップセールスは、生まれ持った才能を持つ一部の人のことではありません。
本記事では、お客様の購買環境の変化とAIの進化という2つの要因から、どんな営業が消え、どんな営業が残るのかを解説します。
そのうえで、行動創造理論の中心概念である「営業体験」をもとに、生き残る営業になるための道筋をお伝えします。
・お客様は営業に会う前に購買の大半を終え、61%が営業を介さない購買を好んでいる
・お客様が言葉にできている「顕在ニーズ」への対応は、海外ではすでにAIが成果報酬で請け負っている
・そのため、日本に多い御用聞き型・関係性構築タイプの営業から、AIに置き換わっていく
・残るのは、お客様がまだ気づいていない課題を問いで引き出し、「営業体験」をつくれる課題再構築タイプの営業
・課題再構築タイプは才能ではなく、行動として身につけられる
数年後に消えるのは「日本に多い営業」だ
営業の仕事が失われる理由は、AIの登場だけではありません。
AIより先に、お客様の買い方そのものが大きく変わっています。
まずは、お客様の側で何が起きているのかを見ていきましょう。
お客様は、営業に会う前に購買の大半を終えている

かつて、商品の情報を持っているのは営業でした。
新商品のカタログを持って訪問し、機能や価格を説明する。
業界の動きを伝え、他社の導入事例を紹介する。
お客様にとって営業は、外の情報を運んでくれる貴重な存在でした。
情報を届けるだけで、営業には十分な価値があったのです。
しかし今、お客様はWebサイト、比較サイト、口コミ、SNS、そして生成AIを使って、自分で情報を集めます。
営業に会う前に、候補の比較まで終えていることも珍しくありません。
米国の調査会社ガートナーが、複雑な購買に関わったB2Bの買い手750人を調べた結果があります(出典:Gartner)。
B2Bの買い手は、購買の時間をどう使っているか
出典:ガートナー(複雑な購買に関わったB2Bの買い手750人への調査)
購買にかける時間全体を100%とした場合の内訳
| 約2/3自分たちで情報を集め、社内で検討する時間 | 17%候補企業の営業と会う時間(全社の合計) | 約5%3社を比較している場合の、自社の営業の持ち時間 |
お客様が購買にかける時間のうち、営業と会っている時間は2割にも満たないのです。
3社で競っていれば、自社の営業に割かれる時間はわずか5%ほどになります。
営業がお客様に会えたときには、比較検討の大部分はすでに終わっています。
営業が「情報を届ける人」である限り、出番はこれからも減り続けていきます。
お客様は「営業に会わずに買いたい」と考え始めている

お客様の変化は、時間の使い方だけではありません。
営業に対する気持ちそのものが変わってきています。
ガートナーが2025年に発表した調査では、B2Bの買い手632人のうち、61%が「営業担当者を介さない購買」を好むと答えました。
さらに73%が、自社に関係のない売り込みをしてくる企業を積極的に避けていると回答しています(出典:Gartner プレスリリース 2025年6月25日)。
お客様は、一般的な情報を集めたり新しいことを学んだりする場面では、営業よりもWebやツールでの自己解決を選びます。
ここで見逃してはいけないのが、同じ調査のもう一つの結果です。
「この商品やサービスは、本当に自社に合っているのか」。
こうした、自社の状況を踏まえた判断が必要な場面では、お客様は営業の意見を求めると報告されています。
つまり、お客様は営業そのものを嫌っているわけではありません。
この違いが、消える営業と残る営業を分ける境界線になります。
後半で詳しく触れますので、覚えておいてください。
顕在ニーズへの対応は、すでにAIが成果報酬で請け負っている

お客様のニーズには、2つの種類があります。
潜在ニーズ :お客様自身もまだ気づいていない、言葉になっていないニーズ
顕在ニーズに応えるために必要なのは、正確な情報と素早い対応です。
これは、まさにAIが最も得意とする仕事です。
海外では、この領域をAIが担うビジネスが、すでに大きな市場になっています。
代表的なのが、元Salesforce共同CEOのブレット・テイラー氏が創業した米国のSierra(シエラ)です。
企業のカスタマー対応をAIエージェントで担う会社で、Fortune 50企業の4割超が導入していると報じられています。
注目すべきは、その料金の仕組みです。
Sierraは、システムの利用料ではなく、AIが出した成果に対して料金を受け取る「成果報酬型」を採用しています。
料金が発生しない場合 :会話が解決しなかったとき、人の担当者に引き継いだとき(多くの場合)
出典:Sierra「Outcome-based pricing for AI agents」
お客様との会話の中でアップセルやクロスセルが生まれれば、その成果に対して報酬を受け取る。
売れなければ、AIの提供会社は報酬を受け取れない。
中南米を中心に展開するChatCenter(チャットセンター)は、さらに踏み込んでいます。
AIの音声・チャットエージェントを設計から運用まで担い、レベニューシェア方式では、AIによって増えた売上の一定割合を報酬として受け取っています(出典:ChatCenter)。
この仕組みが意味することを考えてみてください。
提供会社は、成果が出なければ1円も受け取れないリスクを、自ら引き受けています。
それでもビジネスとして成り立つのは、AIが実際に売上を生み出しているからです。
お客様が「これに困っている」「これをしてほしい」と分かっている場面では、人を介さずAIが売上をつくれることが、すでに証明されているのです。
真っ先に置き換わるのは、御用聞き型・関係性構築タイプの営業

では、日本の営業現場を振り返ってみましょう。
既存のお客様を定期的に訪問し、「何かお困りごとはありませんか」と尋ねる。
言われた商品の見積もりを出し、納期を調整し、トラブルがあればすぐに駆けつける。
そして何より、お客様との良い関係を大切にする。
こうした御用聞き型・関係性構築タイプの営業は、日本の営業組織で最もよく見られるスタイルです。
長期的な取引関係を重んじる日本の商習慣の中で、このスタイルは長く成果を上げてきました。
市場が成長し、お客様の要望がはっきりしていた時代には、要望に誠実に応えることが何よりの価値だったからです。
しかし、このスタイルの営業がしている仕事を分解すると、そのほとんどが顕在ニーズへの対応です。
お客様が言葉にした要望を聞き取り、正確に応える。
この仕事は、先ほど見たとおり、AIが成果報酬で請け負える領域です。
AIは24時間対応でき、聞いたことを忘れず、気分の波もありません。
過去の購買履歴から、アップセルやクロスセルの提案も即座に出せます。
「でも、うちはお客様との関係性があるから大丈夫」と思われるかもしれません。
ところが、人間関係でつながっている取引は、担当者の異動や先方の世代交代で簡単に途切れます。
そして、営業に会わずに買いたいと考えるお客様が増える中、関係性だけでは選ばれる理由になりにくくなっています。
では、どんな営業なら生き残れるのでしょうか。
ここからは、行動創造理論の視点で考えていきます。
行動創造理論が示す、市場で生き残れる営業タイプ
営業のスタイルにはいくつかの型があり、市場の環境によって成果を出せる型は変わります。
まずは、行動創造理論で整理している4つの営業タイプを紹介します。
営業は4つのタイプに分けられる

営業担当者のタイプについては、CEB(現ガートナー)が世界中の営業担当者を対象に行った大規模な調査があります。
書籍『チャレンジャー・セールス・モデル』で紹介され、世界中の営業組織に影響を与えた研究です。
行動創造理論では、この研究を参考にしながら、日本の営業現場に合わせて営業を4つのタイプに整理しています。
行動創造理論が示す、営業の4つのタイプ
右上ほど、これからの市場で成果を出せるタイプ
| 一匹狼タイプ・自信家で直感を信じる ・ルールに縛られず思った通りに動く ・チームになじめないが成績は良い |
★ AI時代に残る課題再構築タイプ・お客様の考え方に強く働きかける ・議論になりそうでも臆さず意見を伝える ・価格交渉もいとわない |
| 日本に多い/最もAIに置き換わる関係性構築タイプ・お客様のニーズに応えようとする ・親しみやすくサービス精神が旺盛 ・お客様とも仲が良い |
日本に多い勤勉タイプ・常にもうひと頑張りを惜しまない ・自発的で簡単にあきらめない ・どの営業よりも活動量が多い |
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日本の営業組織で最も多いのは、勤勉タイプと関係性構築タイプです。
「よく動き、お客様に好かれる営業」は、多くの会社で理想の営業像として語られてきました。
しかし、その理想像こそが、これからの市場で最も苦しくなるタイプなのです。
市場が複雑になり、ハイパフォーマーの顔ぶれが入れ替わった

CEBの研究で注目すべきなのは、営業の難しさによって、成果を出す営業のタイプが大きく変わるという発見です。
お客様の要望がはっきりしていて、商品を説明すれば売れる「単純な営業環境」。
お客様の課題が複雑で、関係者も多く、何を買うべきかお客様自身も分かっていない「複雑な営業環境」。
この2つの環境で、ハイパフォーマーに占める各タイプの割合を、行動創造理論の4分類で整理すると次のようになります。
関係性構築タイプ :単純な環境 18% → 複雑な環境 4%
一匹狼タイプ :単純な環境 29% → 複雑な環境 21%
課題再構築タイプ :単純な環境 24% → 複雑な環境 67%
単純な環境では、どのタイプにもハイパフォーマーがほぼ均等にいます。
頑張る営業も、お客様に好かれる営業も、それぞれのやり方で成果を出せたのです。
ところが複雑な環境になると、ハイパフォーマーの3分の2を課題再構築タイプが占めます。
一方で、関係性構築タイプのハイパフォーマーは、わずか4%にまで落ち込みます。
行動創造理論では、この2つの環境の違いを、日本の市場が歩んできた変化そのものだと捉えています。
30年ほど前の日本の市場は、まさに単純な営業環境でした。
市場が成長し、お客様の要望ははっきりしていて、足しげく通い、関係を築けば売れたのです。
そして現在、お客様は自分で情報を集め、選択肢はあふれ、購買に関わる人も増えました。
日本の市場は、複雑な営業環境へと移ったのです。
市場が変わったのに、日本の営業組織は単純な市場で勝てた営業スタイルを、今も理想として育て続けています。
関係性構築タイプの営業が抱え続ける3つの間違い

関係性構築タイプの営業が成果を出せなくなった背景には、営業の常識として信じられてきた3つの思い込みがあります。
行動創造理論では、これを「営業が必死に抱え続ける大きな間違い」と呼んでいます。
→ 本能のメカニズムで「内集団」に入る
間違い② :お客様の課題に寄り添うことが重要
→ 脳は「教えてくれる人」を無意識に信頼する
間違い③ :お客様が上(もしくは同列)
→ プロフェッショナルが上
間違い①について。
人の脳は、相手が自分の仲間(内集団)か、そうでないかを本能的に判断しています。
信頼は、何度も訪問して時間をかけて積み上げるものではなく、仲間だと感じた瞬間に生まれるものです。
お客様が営業と会う時間が購買全体の17%しかない今、時間をかけて信頼を築くという考え方自体が、成り立たなくなっています。
間違い②について。
お客様の話に寄り添い、共感することは大切です。
しかし、寄り添うだけでは、お客様の考えは何も変わりません。
人の脳は、自分の知らないことを教えてくれる相手を、無意識のうちに頼れる存在だと判断します。
信頼を生むのは「分かってくれる人」ではなく、「新しい気づきをくれる人」なのです。
行動創造理論では、人の意思決定の99%は無意識で行われ、感情が先に動き、論理は後からついてくると考えています。
「そういう見方があったのか」という驚きは、お客様の感情を強く動かします。
その感情が、「この人の話をもっと聞きたい」という無意識の判断につながり、論理的な検討はそのあとに始まるのです。
間違い③について。
「お客様は神様」という考え方は、日本の営業に深く根づいています。
しかし、お客様が本当に求めているのは、自分より詳しく、自分の判断を正しい方向へ導いてくれる専門家です。
病院で医師に「どうされたいですか」とだけ聞かれたら、不安になるのと同じです。
「お客様が上」の営業はAIに勝てない

3つの間違いの中でも、AI時代に最も大きな意味を持つのが3つ目です。
「お客様が上」という姿勢の営業は、お客様の要望を聞き、その要望に忠実に応えようとします。
言い換えれば、お客様の顕在ニーズに応えることを仕事だと考えています。
これは、AIの仕事の仕方とまったく同じです。
AIは、聞かれたことに正確に答えます。
頼まれたことを、文句も言わず、疲れも見せずに、何度でもこなします。
同じ土俵で勝負すれば、人がAIに勝つことはできません。
しかもAIは、成果が出たときだけ料金を受け取るという条件で、その仕事を請け負い始めています。
人の営業が価値を生めるのは、AIとは違う土俵に立ったときだけです。
その土俵こそが、行動創造理論でいう「営業体験」です。
生き残るのは「営業体験」をつくれる営業だけ
ここまで、消えていく営業の姿を見てきました。
ここからは、これからの市場で選ばれ続ける営業について考えていきます。
お客様はコストパフォーマンスより営業体験を重視する

お客様は、何を理由に取引先を選び、取引を続けるのでしょうか。
多くの営業は、「良い商品」と「安い価格」だと考えています。
しかし、CEBの調査が示した結果は、まったく違うものでした。
企業ブランド :19%
製品・サービス :19%
コストパフォーマンス :9%
これは、B2Bのお客様が取引先に対して抱くロイヤリティ(継続して選び続ける気持ち)を、何が生み出しているかを分析した結果です。
企業ブランドと製品・サービス、そしてコストパフォーマンスを合わせても47%。
お客様のロイヤリティの半分以上は、「何を買ったか」ではなく「どう買ったか」で決まっているのです。
商品の機能や価格は、AIでも簡単に比べられます。
だからこそ、比べられない価値である営業体験が、選ばれる理由として重みを増していきます。
営業体験の7つの要素と、AIにできないこと

行動創造理論では、営業体験を次の7つの要素で定義しています。
営業体験をつくる7つの要素
オレンジの4つは、AIには提供できない営業体験
| 1 | 市場に関する独自の視点を提供してくれるAIにはできない |
| 2 | 様々な選択肢を検討する助けになる |
| 3 | 継続的なアドバイスを提供してくれる |
| 4 | 地雷を避けるのに役立つAIにはできない |
| 5 | 新しい問題や結果について教えてくれるAIにはできない |
| 6 | 購入しやすいサプライヤーである |
| 7 | 自社で広く支持をされているサプライヤーであるAIにはできない |
この7つをよく見ると、ある共通点に気づきます。
「購入しやすい」という要素の一部は、AIでも提供できるかもしれません。
しかし、①独自の視点、④地雷を避ける、⑤新しい問題を教える、⑦社内で支持される、という要素は性質がまったく違います。
まず①④⑤は、どれもお客様がまだ気づいていないことを示す行為です。
AIは、お客様から聞かれたことに答えるのは得意です。
しかし、お客様が質問すらしていないことを、お客様の状況を踏まえて指摘することはできません。
お客様自身が問いを持っていなければ、AIに尋ねることもできないからです。
もう一つ、AIには担えない要素があります。
⑦の「自社で広く支持をされているサプライヤーである」です。
これは、単に評判の良い会社という意味ではありません。
B2Bの購買では、経営者や管理職が導入を決めても、現場の部下が納得しなければ物事は前に進みません。
そして部下への説明や社内への浸透は、エグゼクティブや管理職にとって最も手間がかかり、できれば避けたい仕事です。
営業体験をつくれる営業は、この説明と浸透を、意思決定者に代わって事前に進めています。
現場の担当者と会って導入の目的を伝え、一人ひとりの不安を先回りして解消しておく。
だからこそ、意思決定者が最終判断をする時点で、社内の支持がすでにできあがっているのです。
社内の人間関係や力学を読み取り、それぞれの立場に合わせて納得をつくっていく。
この仕事も、AIにはできません。
前半で紹介したガートナーの調査を思い出してください。
お客様は、自社に合うかどうかの判断が必要な場面では、営業の意見を求めていました。
お客様の状況を理解したうえで、問いを通じてお客様自身に本当の課題を気づかせ、考え方そのものに働きかける。
これこそが、課題再構築タイプの営業が提供している価値です。
行動創造理論では、営業体験を実現できるのは課題再構築タイプの営業だと定義しています。
課題再構築タイプは才能ではなく、身につけられる行動である

ここまで読んで、こう感じた方もいるかもしれません。
「課題再構築タイプなんて、一部の優秀なトップセールスだけの話ではないか」
確かに、課題再構築タイプの営業は、生まれ持ったセンスで動いているように見えます。
しかし行動創造理論では、トップセールスの成果を才能ではなく、行動の積み重ねとして捉えています。
人の意思決定は、脳の仕組みに沿って動いています。
その仕組みを理解し、お客様の意思決定を前に進める行動を設計すれば、誰でも再現できるのです。
課題再構築タイプの営業に共通する行動は、大きく3つに分けられます。
市場やお客様の業界の変化から「この会社は今、こんな課題を抱えているのではないか」という仮説を準備して商談に臨む
行動② 問いでお客様自身にリスクを気づかせる
お客様が当たり前だと思っている前提に問いを投げかけ、「もしかしたら、こうなるかもしれない」というリスクにお客様自身がたどり着くよう導く
行動③ 意思決定を前に進める
気づきを与えて終わりにせず、お客様が次に取るべき行動を具体的に提案し、合意する
仮説の立て方は、営業の仮説思考とは?正しい問いがお客様の意思決定を動かすで詳しく解説しています。
具体的な場面で比べてみましょう。
お客様から「原材料費が上がっているので、仕入れコストを下げたい」と相談を受けたとします。
「承知しました。少しでも安くできるよう、見積もりを見直してお持ちします」
この対応は、お客様の顕在ニーズにそのまま応えています。
価格を比べて安い選択肢を出すことは、AIでも十分にこなせる仕事です。
一方、課題再構築タイプの営業は、すぐに答えを出しません。
問いを重ねながら、お客様自身に考えてもらいます。
お客様 :「値上がり前に確保しておこうと、いつもより多めに持っていますね」
営業 :「なるほど。もし来期に需要が落ち込んだり、原材料の価格が下がったりした場合、その在庫はどうなりそうでしょうか?」
お客様 :「……そうか。高く仕入れた在庫が残って、かえって利益を圧迫するかもしれないな」
ポイントは、営業が「在庫を抱えると危ないですよ」とリスクを突きつけていないことです。
営業が投げかけたのは、問いだけです。
「もしかしたら、こうなるかもしれない」というリスクにたどり着いたのは、お客様自身です。
ここで活かしているのが、行動創造理論でいう「恐怖の活用」です。
行動経済学のプロスペクト理論では、人は何かを得る喜びよりも、何かを失う痛みのほうを強く感じることが明らかになっています。
研究によれば、同じ金額でも、失う痛みは得る喜びの2倍から2.5倍にもなります。
しかも、この損失を避けようとする心理は、金額が大きくなるほど強まります。
負ければ1万円を払う賭けなら、「勝ったら1万円もらえれば乗る」と言っていた人でも、負ければ1,000万円を払う賭けになると、「勝ったら1億円もらえなければ乗らない」と言い出すことは珍しくありません。
B2Bの購買は、金額も影響する範囲も大きい意思決定です。
だからこそ、お客様は「得をすること」以上に「損をしないこと」に敏感になっています。
損失回避の心理と営業の関係は、人は本能レベルで損失を嫌う、認知科学で読み解く「成果が出る営業」でも解説しています。
ただし、この恐怖は営業が提示した瞬間に効果を失います。
営業から一方的に告げられたリスクは「売り込むための脅し」と受け取られ、お客様の反発を招くからです。
一方で、自分で気づいたリスクは、お客様にとって自分ごとになります。
「感情が先、論理は後」。不安という感情が先に動くことで、「では、どうすればいいのか」という検討が自然に始まるのです。
値引きで応える営業はAIと価格で比べられ、課題を再構築する営業は「この人に相談したい」と選ばれるのです。
「お客様の要望を聞いてから考える」営業から、「お客様より先に考えて会いに行く」営業へ。
この切り替えは、性格を変えることではありません。
準備の仕方、質問の仕方、商談の終わり方という、一つひとつの行動を変えることです。
行動は、正しい方法で練習すれば変えられます。
御用聞き型・関係性構築タイプの営業であっても、行動を変えれば課題再構築タイプへと進化できるのです。
ただし、ここに大きな落とし穴があります。
研修で新しい営業手法を学んでも、実際に現場で実践する人はわずか10%。
1年後もその行動を続けている人は、たった1%にとどまります。
なぜ研修だけでは営業力が上がらないのかは、社内研修で営業力を上げようとしても、必ず無駄に終わる3つの理由で詳しく解説しています。
研修を受けた直後は「明日から変えよう」と思っても、現場に戻れば目の前の仕事に追われ、慣れたやり方に戻ってしまうのです。
だからこそ、行動を変えるには学ぶだけでなく、行動を定着させる仕組みが欠かせません。
KPIの設定 :「仮説を準備した商談の数」「お客様の前提に問いを投げた回数」「次の行動に合意できた商談の割合」など、行動そのものを数値で追う
モニタリング :営業マネージャーが毎週KPIを確認し、できていない商談を一緒に振り返る
売上という結果だけを追っていても、営業スタイルは変わりません。
結果を生み出す行動をKPIとして追い続けることで、初めて課題再構築タイプの行動が組織に根づいていきます。
まとめ:AI時代に選ばれる営業は「育てる」ことができる
本記事の内容を振り返ります。
AIの進化 :顕在ニーズへの対応は、海外ではすでにAIが成果報酬で請け負っている
消える営業 :日本に多い御用聞き型・関係性構築タイプの営業
残る営業 :お客様の考え方に働きかけ、営業体験をつくれる課題再構築タイプの営業
「お客様の要望に誠実に応える」という、日本の営業が大切にしてきた姿勢は、決して間違いではありませんでした。
単純な市場では、それが最も価値のある仕事だったからです。
しかし、その仕事はこれから、AIが担うようになります。
これからの営業に求められるのは、お客様の要望に応えることではなく、お客様がまだ気づいていない課題を示し、意思決定を前に進める「営業体験」をつくることです。
残された時間は、決して長くありません。
ぜひ今日から、あなた自身とあなたのチームの営業スタイルを見直してみてください。
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よくある質問
営業の仕事は本当にAIに奪われるのですか?
すべての営業の仕事が奪われるわけではありません。
お客様が「これがほしい」と言葉にできている顕在ニーズへの対応は、AIが担うようになります。
一方で、お客様がまだ気づいていない課題を問いで引き出し、意思決定を前に進める仕事は、人の営業にしかできません。
AI時代に生き残る営業の条件は何ですか?
行動創造理論では、「営業体験」をつくれることだと考えています。
営業体験とは、市場に関する独自の視点や、お客様が気づいていないリスクを示し、お客様の意思決定を前に進める関わり方のことです。
これを実現できるのが、課題再構築タイプの営業です。
関係性構築タイプの営業は、課題再構築タイプに変われますか?
変われます。
課題再構築タイプの違いは性格ではなく、「仮説を持って会う」「問いでお客様自身にリスクを気づかせる」「意思決定を前に進める」という行動にあります。
行動はゴールとKPIを設定し、継続的にモニタリングすることで身につけられます。
▼ こんな課題を感じていませんか?
✅ 既存顧客への御用聞きが中心で、新しい提案が生まれていない
✅ AIや購買行動の変化の中で、自社の営業のあり方に不安がある
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